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第18回機械器具設置工事雑学講座

皆さんこんにちは!

株式会社優縁工業、更新担当の中西です。

 

さて今回は

~比較~

ガスタービン、蒸気タービン、ボイラ、脱硝・脱硫、CCUS設備——扱う機器は似ていても、据付(機械器具設置)の前提条件は地域ごとに大きく異なります。違いを押さえるほど、工期・コスト・安全・品質は安定します。本稿は実務者向けに、主要地域の“設置の常識”を比較し、日本の強みと課題を整理します。


1. 地域別スナップショット(エネルギー事情 × 据付のクセ)

北米(米国・カナダ)

  • 燃料と運用:ガス複合(CCGT)中心。系統に再エネを大量受け入れ、起動停止の柔軟性が重視。

  • 据付のポイント:EPCが安全文化(OSHA準拠)とドキュメント管理に厳格。LTSA(長期保守契約)前提の据付品質証跡(ITP、MDR)が重視される。

  • 契約文化:クレーム・チェンジオーダーが制度化。契約条項の読み込みが成否を分ける。

欧州(EU・英国)

  • 燃料と運用:ガス・一部残存石炭+系統安定化サービス(一次・二次調整力)が収益源の一部。CCUS・水素対応の改修案件が増加。

  • 据付のポイントCE/PED、ATEX、EN規格の適合が必須。ローカル労働協約と環境規制(騒音・粉じん・生態系配慮)に時間を要する。

  • 工法モジュール化・プレアセンブリで現地工期を短縮。デジタルツイン活用が一般化。

中東

  • 燃料と運用:ガス主体+海水淡水化の熱併給(Cogeneration)が多い。

  • 据付のポイント:高温・砂塵環境でのフィルタリング・防食仕様が設置時から重要。巨大クレーン・SPMTの重機手配は早期予約が必須。

  • 契約:FIDIC系契約。Performance Guaranteeの条件が厳しく、試運転の測定・計測手順を早期確定。

東アジア(日本・韓国・中国沿岸部)

  • 燃料と運用:日本・韓国はLNGガス複合と高効率石炭、中国は地域差が大。地震動対応を前提とした基礎・架台設計が特徴。

  • 据付のポイント:品質の作り込み(寸法・振動・熱伸び管理)に強み。現場5S、安全衛生の標準化が行き届く。

  • トレンド:アンモニア混焼の試行、既設の改修・リパワリングが活発。

南アジア・ASEAN

  • 燃料と運用:石炭・ガスが混在。モンスーンや高湿度、港湾制約で物流が不安定。

  • 据付のポイント現地調達(ローカルコンテンツ)と人材育成がカギ。点群スキャンや治具簡素化で合番ミス削減を図る。

  • 契約:公共発注で最安落札傾向。品質確保のためITPの“必須点検”を最小限にしない工夫が必要。

アフリカ

  • 燃料と運用:ガス+内燃力(HFO・ディーゼル)も多い。系統が脆弱でブラックスタート設備の据付・試験に比重。

  • 据付のポイント:港・道路インフラ制約が大きく、重機・治具を含むフル装備持ち込みの計画性が勝負。

  • 人材:現地採用・訓練の投資が“後のO&M品質”に直結。


2. コード・規格・承認の違い(据付前に決めるべき“ものさし”)

  • 機械・圧力機器:ASME / API(北米)、EN・PED(EU)、JIS・高圧ガス法(日本)など。

  • 電気・防爆:IECEx / ATEX、NFPAで設計・施工が分かれる。

  • 建屋・耐震:ASCE 7(米)、Eurocode 8(EU)、日本の建基法+告示。据付架台は熱伸び・地震応答を同時満足させる。

  • 溶接・NDE:ASME IX/AWS、EN ISO 9606。UT/RT/PAUT等の適用基準と合否基準が地域で異なる。

  • 環境・許認可:EIA(環境影響評価)の要件と審査期間が国ごとに大きく違う。

実務Tips:キックオフで**適用規格一覧(Register)**を確定 → ITP(検査計画)・サブミットリスト・図書体系(MDR)にひも付ける。


3. 調達・物流・モジュール化:国境を越える“段取り力”

  • 重機・海上輸送:ヘビ―リフト船・SPMT・超重量クレーンは世界で取り合い。早期ブッキングと代替案(分割・モジュール化)が命綱。

  • モジュール化:欧州・北米はプレアセンブリが進む。高温多湿の地域では屋内工場での事前組立が品質・安全に有利。

  • 税関・通関:インコタームズ、通関書類、原産地規則の遅れが工期直撃。据付順序に合わせたパッキングリスト粒度が効く。


4. デジタルと現場:適用レベルの地域差

  • 3D(BIM/CIM)・点群:欧州・日本は干渉チェックが定着。南アジア・アフリカでは“必要箇所に限定”の導入が現実的。

  • 予兆保全(IoT):北米・欧州で状態基準保全(CBM)がO&M契約に組み込まれやすい。

  • AR/ドローン:高所点検・進捗共有に有効だが、飛行・電波規制は国別確認が必須。


5. 人材・安全文化:資格と“現場の共通語”

  • 安全法令:OSHA(北米)、EU指令、日本の安衛法。ロックアウト・タグアウト(LOTO)、高所・酸欠・熱中症対策の“当たり前”レベルが違う。

  • 資格制度:クレーン、玉掛け、足場、溶接、非破壊検査の認証元が地域で異なる。クロスアサインには相互承認や再訓練が必要。

  • 多国籍現場の言語:JSA(作業安全手順)・PTW(作業許可)・図面番号の表記統一でヒューマンエラーを削減。


6. 収益モデルと運転思想:設置要件への波及

  • 容量市場・調整力市場の有無で、据付段階から起動性能・最低負荷・ライドスルー性能への要求が変わる。

  • コージェネ(熱併給)は配管・バイパス系の熱膨張吸収が設置の難所。

  • CCUS・混焼改修は既設基礎・架台流用の可否がコストを左右。


7. 日本の強みとボトルネック(世界から見た相対位置)

強み

  • 精緻な据付精度・振動管理・品質記録、地震国の配管柔構造設計、現場の5S・安全衛生。

  • 製造〜据付〜試運転まで一気通貫の段取り力と“手戻りの少なさ”。

ボトルネック

  • 海外EPCのクレーム/チェンジ運用への慣れ。英語での契約・技術交渉の体力。

  • 巨大化する重機・輸送枠の早期確保、多拠点同時施工でのシニア人材不足。

  • コスト競争力よりも“高品質・高信頼”で勝負する案件選別の目利き。


8. 比較マトリクス(要約)

観点 北米 欧州 中東 東アジア 南アジア/ASEAN アフリカ
主流設備 CCGT CCGT+改修 CCGT+Cogeneration CCGT/高効率石炭 混在 ガス+内燃力
規格/法令 ASME/NFPA/OSHA EN/PED/ATEX FIDIC+現地規制 JIS+安衛+耐震 独自+国際混在 独自+国際混在
工法 モジュール+LTSA モジュール+環境厳格 重機大・高温砂塵 高精度・耐震 現地化・訓練重視 物流主導・装備持込
リスク クレーム管理 許認可・環境 物流・温度 調整力要件 雨季・通関 インフラ制約

9. 日本企業への実務アクション(チェックリスト)

  1. 規格の早期確定:適用コード・検査レベル・ドローン/電波規制をキックオフ1ヶ月以内にRegister化。

  2. 物流の二段構え:重機・船枠は本命+代替ルートを同時確保。SPMT/ジャッキアップの現地サプライヤ評価を前倒し。

  3. モジュール戦略:現地の気候・港湾制約に合わせ、**“どこまで工場でやるか”**の境界を設計初期で固定。

  4. 人材の二階建て:コア据付班(国際規格・英契知見)+ローカル育成班(OJT教材・多言語JSA)。

  5. 契約運用:チェンジ管理・遅延損害・性能保証のトリガー条件をプロジェクト帳票に埋め込み。

  6. デジタル最適化:点群→干渉→治具→ITP→MDRのデータ連携を一本道に。

  7. 安全・環境:LOTO、許容温度・粉じん、騒音・振動、廃材処理の国別差を標準様式で可視化。


違いを“壁”ではなく“設計条件”に

世界は多様です。だからこそ、地域差を前提に据えた設置設計が競争力になります。

  • 規格・契約・物流・人材・デジタルを先に決める

  • 現場での再現性を上げる、

  • そして“日本発の丁寧な据付”をモジュールとデータで輸出する。

移行期の電力インフラは、設置業の技術と言語化された手順があってこそ立ち上がります。世界の“当たり前”を自分たちの言葉で定義し直し、次のプロジェクトで即、使いましょう。

 

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