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第19回機械器具設置工事雑学講座

皆さんこんにちは!

株式会社優縁工業、更新担当の中西です。

 

さて今回は

~変遷~

 

“壊れたら直す”から、“止めずに寿命を設計する”へ

火力発電は、エネルギー供給のベースを支えてきました。タービン・ボイラ・HRSG(排熱回収ボイラ)・発電機・復水器・ポンプ・送風機・電気計装——それらを止めずに安全・安定で動かし続けるのがメンテナンス業です。ここ70年の流れを、技術・運用・契約・人材・環境の視点で整理し、「これから」の実装ヒントまでまとめます。


1|時代区分で見るメンテの進化

① 高度成長期〜1980年代:事後保全+定期保全の時代

  • 基本思想はRun-to-Failure(故障後修理)と時間基準の定期開放

  • 年1回〜数年ごとに大規模定検(タービン開放、ボイラ水管探傷、発電機乾燥)を実施。

  • 設備はベースロード運転が中心で熱疲労は相対的に軽微。

  • 技術基盤:振動計、油分析、磁粉・浸透探傷、超音波厚さ測定など古典NDTが主役。

② 1990年代〜2000年代:**予防保全→状態基準保全(CBM)**へ

  • deregulation/IPP(卸電力)により可用性とコストが両立課題に。

  • **RCM(Reliability-Centered Maintenance)RBI(Risk-Based Inspection)**が導入。

  • ガスタービンのHGP(高温部)ライフ管理が高度化、ボイラはエロージョン・腐食の系統対策へ。

  • 技術基盤:オンライン振動監視、熱画像、油劣化指標、渦流探傷、フェーズドアレイUT

③ 2010年代:予知保全+フリート横断のデータ活用

  • IIoT/センサー低価格化で常時監視が標準に。

  • デジタルツイン機械学習により異常予兆を早期検知、停電前の介入が可能に。

  • 再エネ増で火力はミドル・ピーク調整へ。起動停止の多頻度が新たな損傷(低サイクル疲労、熱歪み)を誘発。

④ 2020年代〜:柔軟運転・脱炭素・遠隔化の三重対応

  • 高頻度起動(fast start)・深い負荷追従が常態化。

  • バイオマス混焼、アンモニア/水素混焼、CCUS準備など燃焼・材料・腐食環境が変容。

  • パンデミック経験で遠隔点検・ドローン・AR支援が実装。OT/ITセキュリティも重要論点に。


2|設備別に見た“変わってきたポイント”

  • ガスタービン(GT):コーティング(TBC)、冷却孔詰まり、クリープ&熱疲労の複合。カレンダー時間より起動回数が寿命に効く時代へ。

  • 蒸気タービン(ST):ロータ熱曲がり、蒸気品質・脱気、トランジェント管理が鍵。バルブ擦り合わせからシート交換/表面改質へ。

  • ボイラ/HRSG:サイクル運転で水撃・急熱急冷、低温腐食、フィンチューブのファウリングアコースティックリーク検知ドローン煙道点検が普及。

  • 発電機:絶縁劣化の部分放電監視、水素冷却機のシール劣化オンライン絶縁診断が標準に。

  • BOP(復水器・ポンプ):復水器は汚れ係数の管理とチューブ材質最適化、ポンプはキャビテーションと軸受監視で**熱効率(Heat Rate)**を下支え。


3|保全戦略のパラダイムシフト

  1. 時間基準 → 状態基準 → 予知
    定期開放は“必要最小限”に。オンライン監視×ルールベース×AI点けたまま直すへ。

  2. 個別設備 → プラント全体 → フリート統合
    KPIは設備単体からEAF/EFOR(設備利用率/強制停止率)MWh損失へ。

  3. 保守作業 → ライフサイクル設計
    材料・コーティング・運用条件を束ねて寿命を“設計”。さや当て(デチューン)と性能維持の最適点を探る。

  4. 人手依存 → 手順×データの再現性
    作業SOP・許可証(PTW)・LOTOの厳格化と台帳のデジタル化。熟練の勘を見える化


4|契約と収益モデルの変化

  • LTSA(長期保守契約):OEM/独立系による稼働ベースの可用性保証性能補償が一般化。

  • 成果連動型:Heat Rate、EFOR、起動信頼度など成果KPI連動の契約。

  • アウトソース/共同運営:O&Mの共同化でスペアパーツ共同保有工事ウィンドウ共有が進む。


5|デジタルが変えた日常

  • 常時監視:軸受・ハウジング・蒸気条件の高頻度サンプリング、計装遅れの補正。

  • 予兆検知異常振動の指紋、温度プロファイルのドリフト、油中金属摩耗粉

  • 遠隔支援ARで本社技術者が現場に重畳指示、ボアスコープ画像のクラウド診断。

  • データ品質:センサー校正、欠測補間、タグ体系の正規化が精度の要。


6|再エネ時代の“柔軟運転”がもたらす新課題

  • 起動停止疲労:HRSGドラム・蒸気配管の低サイクル疲労、フランジ漏えい。

  • 低負荷腐食:低温域での硫酸露点腐食、SCR触媒の活性低下。

  • 熱効率劣化:パートロードでのHeat Rate悪化を洗浄・調整・漏洩対策で極小化。

  • オペレーション教育スタートアップ手順の厳守温度勾配制御が寿命を左右。


7|サステナと規制対応

  • 排出規制:NOx/SOx/PM/水銀——燃焼・触媒・集じんの総合最適。

  • 燃料転換・混焼:バイオマス・アンモニア・水素は燃焼学と材料腐食の新知見が必須。

  • CCUS溶剤劣化・腐食・熱統合まで含めた保全設計が新領域。

  • 安全文化TRIR(総合傷害率)やハイポテンシャル事象の管理が投資家の評価指標にも。


8|ショートケース(要点)

A|GTの起動信頼度改善

  • 課題:年間強制停止が多発。

  • 介入:起動時振動の周波数成分分析→オイルミストと整備隙間の相関を特定、シール改良+ルール改定

  • 結果:Start Reliability +6pt、未計画停止大幅減。

B|HRSGのチューブリーク削減

  • 課題:サイクル運転で漏洩頻発。

  • 介入:アコースティック監視+ドラム昇温率制限、ドレン抜き自動化。

  • 結果:リーク件数−70%、アウトエイジ短縮

C|復水器洗浄でHeat Rate改善

  • 課題:夏季の真空劣化。

  • 介入:オンライン化学洗浄+チューブ材質セグメント管理

  • 結果:Heat Rate −1.2%、発電原価低減。


9|現場で効くチェックリスト(抜粋)

計画段階

  • クリティカル設備のRBIマトリクス更新

  • 起動回数ベースの寿命評価(GT/HRSG/ST)

  • 予兆監視のしきい値とアラート責任者

実行段階

  • PTW/LOTOと同時作業リスクのレビュー

  • ボアスコープ・NDTの範囲と受入基準

  • 作業SOPの写真・動画化と教育

運転段階

  • 起動・停止の温度勾配滞留時間管理

  • Heat Rate日次レビュー(漏えい・汚れ・制御)

  • 予兆アラームのファーストレスポンス手順

台帳・KPI

  • EAF/EFOR、Start Reliability、Heat Rate、MTBF/MTTR

  • 安全(TRIR、ハイポテンシャル)、CO₂原単位

  • スペア消費・リードタイムの見える化


10|人と組織:継承と“再現性”

  • 退職波の中でマルチスキル化(電気×機械×計装)。

  • 失敗知識DBの構築(逸脱事例→是正・再発防止まで)。

  • 現地×本社×OEMの“三位一体”で遠隔支援→意思決定を迅速化。


11|90日アクション(すぐ効く三手)

  1. クリティカリティ再評価×RBI刷新
     フリートの主要機器を事故影響×故障確率で棚卸し、検査インターバルと範囲を更新

  2. 起動手順のデジタル標準化
     温度勾配・圧力上昇率・バイパス操作を“数値化したSOP+運転員教育”に落とし、Start Reliabilityを底上げ。

  3. 監視データのクレンジングとしきい値再設計
     センサー校正・タグ正規化・欠測補間を実施し、誤警報を半減アラート→一次診断→処置の流れを一本化。


結び——“止めない”は偶然ではない

火力発電のメンテナンスは、事後→定期→状態→予知と進化し、いまは柔軟運転と脱炭素という新条件に挑んでいます。
価値は、**安全(人命)×可用性(系統)×経済性(Heat Rate)×環境(排出)**を同じ盤面で最適化できるかに尽きます。

 

 

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